6月は挫折の季節
真っ黒な排気ガスを吐き出しながら まったく改善の兆候が見られないこの街の交通事情に 心からウンザリしてるようなスピードで走る西行きのバスに乗り込み 左の後輪の真上の窮屈な席に座り 窓に頭をもたれながら客のまばらな車内を見渡していた僕は 突然左の後輪の馬鹿でかいダブルタイヤに僕の薄汚いスニーカーが巻き込まれ あっという間に躰ごと引き込まれ肉がちぎれ骨が砕け すべてにおいての自分の甘さや自信のなさのために粉々になって 眼に見えないほどのさらさらな粒子となりバスのディーゼルエンジンに吸い込まれ 真っ黒な排気ガスとともに拡散される僕の惨めななれの果ては 期待はずれの恐怖の大王となって北半球を覆い 血に飢えた暴君を唆し 灼熱の大地に砂嵐を巻き起こし 噎せ返るようなジャングルを焼き尽くし まとわりつくような長い雨となり肉を腐らせ 凍てつくツンドラの大地に雪となって静かなため息のように降り積もり ささやかだけれども核心を含むメッセージを渦巻きに閉じこめた化石となって長く深い眠りについた 馬鹿馬鹿しい夢だと思う スニーカーの靴ひもを結び直しながらそう思う 下車したバスは明日を祝う雨の中 大きな川を渡って西へ向かい見えなくなった 僕はテールランプが見えなくなるまでぼんやりと立っていた アパートに向かって通り慣れたいつもの道を歩く 白く輝く街灯 雨に濡れる若葉 すれ違う人達の顔 僕は思う 僕は本当に家に向かって歩いているのだろうか? 僕が座るべき椅子は誰かが空けて待っていてくれるのだろうか? 僕は深い眠りについたままなのではないだろうか? 色を失った化石のように きっと意味なんて無いんだろう 必要でもないんだろう 雨が強くなってくる 不規則なリズムが僕の鼓動を狂わせる 顔を手のひらで覆ってみる 血の流れを感じる 不規則な雨のリズムに狂わされながらも僕の心臓は鼓動している けしてきれいな血液とは言えないけれど 確かに僕の血が全身を躍動している 顔を上げて目を開く 軽く痺れを感じる右手を左胸に置く 指先に力を込め心臓をつかみ取る 血がほとばしる 痛みはない 右手に心臓を掴んだまま前に突き出す 血がしたたり落ちる けして美しい血液だとは言えないけれども 心臓は動き続ける 筋肉は伸縮を続け命を運ぶ目的を果たそうとする 目を閉じてみる 雨の音は聞こえない 色はブルー 6月のブルー もう一度ゆっくりと目を開けてみる 僕はその時、神を見た 6月は挫折の季節
※ 6月の7日間 “rokugatu blue” disc orange Track #11
インスト曲「6月は挫折の季節」をイメージした詩です。
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